根室農業改良普及センター技術情報 乾乳牛を見直そう

乾乳牛を見直そう 
 ~疾病を減らす乾乳牛の管理~~栄養編~

 (2007年12月)

 
1 周産期疾病について

 酪農において、周産期疾病は生産に大きな影響を与えている。
 起立不能による乳牛の廃用や生産の低下・繁殖成績の低下・治療費の増加・疾病牛管理労働の増加とその要因は多々である。
 周産期疾病をコントロールすることは、生産の増加・所得の増加・労働の減少に直接・間接に作用する。

 図1は根室NOSAIN支所における分娩後30日以内の初診疾病を調査した。
 第1位として、急性乳房炎が1544件、2位が乳熱で1130件となっている。
 その他原発性ケトーシス・第四胃変位などの周産期疾病が続いている。
 周産期疾病の多発がわかる。

 syusannkibyou_fig2.gif
 
2 周産期疾病の関連
  乳熱、胎盤停滞、ケトーシス、第四胃変位の4つの疾病について初診・再診の割合と発症前の疾病を調査した。
  初診では、乳熱が98%と高く、ケトーシス、胎盤停滞、第四胃変位の順になっている。
  乳熱がケトーシス、胎盤停滞、第四胃変位の前歴となっている割合が、41%、39%、30%となっていた。
  また、第四胃変位の前歴のうち、ケトーシスが28%あった。
 
 このことから、最初に乳熱が発生し、次にケトーシスが発生し、最後に第四胃変位という流れが見える。
 syusannkibyou_fig5.gif
 
3 乳熱の発生メカニズム
  カルシウムは筋肉収縮作用があり、血中カルシウムが不足すると、筋力低下・起立不能・食欲不振ついに昏睡状態となる。乳熱と呼ばれる症状を呈する。
 血中カルシウム濃度が高レベルではカルシトニン(ホルモン)が支配し、血中から排出されるカルシウムが多い。
 血中カルシウムが高レベルで分娩すると、上皮小体ホルモンが稼働しないため、骨から血中へのカルシウムの移動が遅れ、乳熱発生の引き金を引いてしまう。
 乳熱予防には、分娩前に血中カルシウム濃度を低レベルにし、上皮小体ホルモンの活動を促す。
 これにより、骨から血中へカルシウムの移動を促進する。
 また、骨に蓄積が少ない場合、分娩前に乳熱が発生する。
 syusannkibyou_fig7.gif
 

乳熱予防のポイント

  1. 上皮小体ホルモンの活性化
  2. カルシウムの蓄積 
 4 飼料給与のポイント
 乾乳期は、カルシウム代謝の移行、乳腺の回復、胎児の成長、次回の繁殖の準備等の期間である。
 正常な排卵には過去60~80日安定した栄養摂取が必要である。
 乾乳期の栄養濃度が泌乳期の状態(乳量・繁殖)を決定する。
 また、乾乳期にこれまでの低栄養の管理から極端な高栄養への移行は、胎児の急激な発育を招き
 難産の原因となるので、次の乳期をかけてゆっくり栄養濃度の向上を図る。
 粗飼料の十分な採食量を確保しながら、カルシウムがスムーズに動員される栄養管理が必要である。(第一胃の張りを観察)
 乳熱を予防するため、乾乳後期のカルシウムとリンの濃度を調整する方法を説明する。
 
 (1)腹一杯食わせる
 乾乳牛は、食い込みが落ちやすい時期である。
 この時期に腹一杯食わせることが、周産期疾病防止の第一歩となる。
 特に、乾乳牛の密度が高い場合、食い負けする個体が増え、周産期疾病を助長する。
 写真1はお腹いっぱい採食できてる個体である。左側の肋骨の後ろが第一胃である。
 この部分が凹んで、陰があるようでは採食が不足している。
 syusannkibyou_fig3.gif

(2)カルシウムの蓄積と制限給与

  1. 乾乳前期
    乾乳前期は、カルシウムを蓄積する時期にあたり、カルシウム資材を給与し、骨にカルシウムを蓄積させる。
  2. 乾乳後期(カルシウムの制限給与)
    飼料中のカルシウム濃度を制限し、リンとカルシウムの濃度を調整することで、上皮小体ホルモンの活動を促す。
    マメ科の多い飼料はカルシウム濃度が高いことから、粗飼料の選択に注意する。
    乾乳後期はカルシウムを制限給与しているので、泌乳牛や乾乳前期の飼料の盗食を防止する。

表  設計例のCa・Pの濃度

 

   乾乳~分娩3週間前  分娩3週間前~分娩

 Ca/P 

 2.0

 0.8~0.9

 Ca

 0.6%

 0.24~0.27%

 P

 0.3%

 0.3%

 (3)こんな粗飼料は与えない
 
  • マメ科含量の多い粗飼料
  • 2番草(マメ科が多い)
  • Ca濃度の極端に高い粗飼料
  • カリウム濃度3%以上の粗飼料
  • 発酵品質の悪い粗飼料
 ※血中イオンバランスを整える方法(DCAD)がありますが、カルシウム制限給与によるカルシウム管理を記載する。

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