BHBを活用した潜在性ケトーシスの早期発見と対策について
1.潜在性ケトーシスの指標としてのBHB
ケトーシスはエネルギーバランスが崩れた結果、乳量低下や牛体の削痩、重篤化すると新たな周産期病の発症や繁殖性を悪化させるなど、酪農経営に悪影響を及ぼす周産期病です。ケトーシスは血中のBHB(ケトン体)の増加により発症しますが、リスクを軽減するためには、早期すなわち「潜在性ケトーシス」段階での発症牛の特定と対策を行う必要があります。現在、(一社)北海道酪農検定検査協会では牛群検定WebシステムDL上で乳検実施農場を対象にBHB情報の提供を行っており、BHBが0.13mmol以上の牛を「潜在性ケトーシス牛」として特定できます。したがって、BHB情報の活用により潜在性ケトーシス牛を特定し、新たな周産期疾病や繁殖障害を予防することが期待できます。
2.BHB(ケトン体)が増加する主な要因
要因1 泌乳前期のエネルギー不足
分娩~泌乳前期には、乳牛がエネルギー不足を補うため、体脂肪は遊離脂肪酸(以下、NEFA)に変化しますが、これを肝臓で処理することでBHBなどのケトン体が発生・蓄積します。
ケトーシス牛は正常牛にくらべ、分娩直前からNEFAが急増するため(図1)、この器官のエネルギー充足を図る必要があります。
要因2 不良発酵サイレージの給与
泌乳期全般をとおし酪酸発酵の多い低品質サイレージを給与した場合、BHBが上昇します。
図1 ケトーシス群と健康群の血中NEFAの変化(2009静岡畜研 一部改変)
3.BHB情報の活用例~産次別の潜在性ケトーシス発生状況を踏まえた対策
(1)周産期対策レポート
図2の帳票では一頭ごとの生産データが確認できます。特に、今乳期中の高BHB牛には*印が記されるため、潜在性ケトーシス牛の特定が可能です。
図2 周産期対策レポート(個体)帳票(一部抜粋)
(2)分娩実績サマリー
図2に加え、図3の帳票をあわせてみることで、農場全体の産次別の高BHB牛の発生状況把握と発生要因の推測が可能です。高BHB牛(潜在性ケトーシス牛)は3産以上のみでの発生となっています。産次別の発生要因は表1のとおりですが、3産以上の発生の主な要因として、分娩前(乾乳期)に十分飼料摂取できていないことなどが考えられます。主な対策としては(1)移行期の管理の見直し、(2)分娩前までに乳房炎や蹄の治療をしっかり行うことが必要です。
図3 分娩実績サマリー(産次別)帳票(一部抜粋)
表1 潜在性ケトーシスの産次別の発生要因
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