平成19年度酪農技術の再点検06根室農業改良普及センター北根室支所

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6 乾乳牛の管理のポイント

 乾乳牛の飼養管理が不適切になると、次の泌乳期の大きな経済的損失に結びつきます。乾乳期の持つ意味を良く理解して、必要なマネジメントを確実に行うことが大切です。

 (1) 乾乳牛の飼養環境
 
 ア 乾乳牛と泌乳牛は分けて飼う  
 

乾乳牛と泌乳牛を一緒に飼うことは、

  • 搾乳音による搾乳刺激を受ける
  • 泌乳牛用濃厚飼料等の盗食による栄養障害が発生しやすい
  • 繋留によるストレスが大きい等の問題を生じます。

乾乳牛は、泌乳牛と分けて飼うことが大前提となります。(表1)

 

 

 

表1 乾乳牛の管理方法と課題

 

泌乳牛
飼養形態

 乾乳牛

泌乳牛
との分離 

搾乳音
刺激 

盗食 

栄養管理 

ストレス 

 環境

飼養方式 

つなぎ牛舎

つなぐ 

バラバラにつなぐ 

なし 

あり 

あり 

 難しい

 大

つなぐ 

集めてつなぐ 

なし 

あり 

あり 

比較的容易 

 中

放し飼い 

パドック 

あり 

なし 

なし 

比較的容易 

 小

乾乳舎 

あり 

なし 

なし 

 容易

 小

フリーストール 

フリーストール内

群分けする 

 あり

なし 

なし 

 容易

 小

別飼い 

乾乳舎 

あり 

なし 

なし 

 容易

 小

 イ 乾乳牛は群分けする

 乾乳期間の前期と後期では、飼養管理のポイントが異なることから群分けをします(表2)。
 前期と後期に分けられた2つの群に合わせた管理をしやすい施設の準備をする必要があります。

表2 乾乳期の意義

 

 乾乳期間 意義  飼養管理  目的 
前期  乾乳開始から
分娩3週間前 
休息的意味  粗飼料中心 

乳腺胞の回復
牛体の休息
胎児の発育に要する養分の補給 

後期  分娩3週間前
から分娩まで 
次期泌乳の準備  やや高い栄養濃度  乳腺胞の再生
第一胃の絨毛の回復
分娩後の産乳のための体力をつける
低カルシウム血症対策
 

 

 ウ 乾乳期の環境と施設

乾乳牛の飼養環境には、群分けされた群に必要な管理を実現する機能が必要です(図1)。

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図1 乾乳牛の環境改善

 ア)繋ぎ牛舎内に同居
 第1段階は「乾乳牛を集めて並び替えて繋ぐ」こと。さらに第2段階としてスタンチョン繋留の場合、体の大きさや乾物摂取量の低下を考慮してコンフォ ートストールへの改造する等の対応をします。

イ)搾乳牛と違う施設で別居
a)既存施設の利用
 乾乳牛を古い搾乳牛舎や乾草舎等に別飼いすることで、搾乳牛舎をフルに使えます。空いている施設がある場合は有効利用を検討しましょう。

b)パドックの利用
 充分な水、飼槽の設置とぬかるみを取り除き乾燥した状態を保つ管理が必要です。

c)乾乳舎の利用
 乾乳牛舎には、牛の競合を減らし、乾物摂取量を向上させる施設構造が求められます。
・水槽と飼槽
 掃除しやすく充分な広さを持つ水槽と採食を制限しない構造と充分な広さを持つ飼槽を整備します。
・牛床の大きさ
 ストレスを減らすため、広さは充分とり、ゆったり寝れるサイズにする。敷き料を頻繁に交換し、牛を清潔に保つこと
・換気
 乾乳期は臭気や環境変化で乾物摂取量の低下しやすい時期なので換気を充分とります。

 

 (2) 乾乳牛の飼料給与のポイント
 乾乳期は、「前乳期の泌乳ストレスの解消」と「次期乳期のための準備期間」という重要な役割があります。

 

 
 









響 
 カリウムの過剰摂取

 ↓

 
 血中カルシウムを増やす
ホルモンの働きが落ちる

 ↓

骨からのカルシウム補給
が少なくなる

↓ 

低カルシウム血症 

図2 低カルの要因

ア 乾乳牛には何が起こっているか

ア)まず食べられなくなる
 胎児は分娩前の60日間でそれまでのほぼ倍の
大きさに成長し、大きくなった子宮が胃腸を圧迫し
採食量がおちます。
 特に分娩直前では、分娩2週前に比べ乾物で
1/3程度採食量が減ります。

イ)一方で栄養要求量はどんどん増える
 胎児が大きくなる乾乳後期には栄養要求量が
増加します。この時期に極端な栄養不足に陥っ
たり、やせさせたりすると多くの周産期病につな
がります。
{第四胃変位(以下四変)、ケトーシス、脂肪肝、
繁殖障害等}。

 

ウ)餌に含まれるミネラルに注意する時期
 乾乳後期は分娩後の低カルシウム血症(以下低カル)を避けるために、カルシウム給与量を制限する時期です。
 また、カリウムの給与量が多いと体内のカルシウムが使われにくくなり間接的に低カルを引き起こします(図2)。
 低カルは目に見えるものでは起立不能等に現れますが、潜在的には様々な疾病につながります(図3)。

エ)ルーメン内の絨毛の退縮
 乾乳期は牧草中心の餌なので絨毛が短くなっています。分娩後、この状態で泌乳前期用の濃度の高い餌を給与すると四変や蹄病等の原因になります。

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図3 低カルの影響

イ どうすればよいか

ア)飼養環境の改善
 まずストレスが少ない環境、必要な餌を給餌できてそれを食い込める環境、衛生的な環境、蹄によい環境等に少しでも近づけます。

イ)可能な限り良質粗飼料を給与
 1番のポイントと言っても良い部分です。ただでさえ採食量が落ちる時期なので可能な限り良質な粗飼料を与えます。搾乳牛を優先するあまり、カビや酪酸発酵している粗飼料を与えるのは、肝機能が衰退している乾乳牛に大きな負担をかけることになります。

ウ)濃厚飼料の給与
 栄養要求量の増加に対応するため、及びルーメン内壁を泌乳期に対応させるために乾乳後期には濃厚飼料を3~4kg、前期で2kg程度給与します。また、乾乳期間にボディコンディションを変動させることは肝機能への負担を増加させてしまうので避けます。

エ)高カルシウム、高カリウムの餌は避ける
 低カルやそれに起因する疾病を防ぐために乾乳後期には高カルシウム飼料(マメ科製品、搾乳牛用配合)、高カリウムの牧草(糞尿を過剰散布した草地)などは給与しないことが基本となります。
 施設や労働力の問題により、すべてを改善することができなくても、可能なことから手を付けていくことが改善の第一歩です。

 (3) 乾乳牛の飼料給与例

 ここでは実際に給与する場合にどういった飼料の組合せがよいか考えてみます。乾乳牛は別飼いを基本とし、乾乳前期、乾乳後期を分娩前3週間前を目安に群分けします。

 ア 乾乳前期(乾乳から分娩の3週間前まで)の管理
  • 乾乳方法は、乾乳牛を別飼いし、一発乾乳が望ましい。給水制限はしない。
  • 乾物摂取量確保のため、嗜好性の高い粗飼料を給与する。糞の堅さを見て、濃厚飼料を増減する。
  • 放牧地で飼養する場合は、乾物不足にならないように粗飼料を併給する。
イ 乾乳後期(分娩3週間前から分娩まで)の管理
  • 粗飼料はイネ科単播一番草サイレージか低水分ラップサイレージが望ましい。
  • カルシウム含量の高い配合飼料、マメ科を多く含む粗飼料、アルファルファ製品、ビートパルプは給与しない
  • 鉱塩等の塩は給与しない。
  • 粗飼料の粗タンパク質(CP)が低い場合は、分娩時の乳房の張りが悪くなるため、糞の状態を見て大豆粕等で調整する。
  • CP濃度を上げすぎると(乾物中15%以上)疾病の兆候を示す可能性があるので、飼料計算に基づいて給与する。             
  • 清潔な分娩房を確保し、分娩に際しては繋留ないで自然分娩が望ましい。
 ウ 設計給与例

 表3で乾乳期の栄養レベルの目安を示しました。
根室管内の一般的な成分のサイレージ(水分79%、TDN58%、CP10%、カルシウム0.4%、リン0.2%)ではどんな飼料の組合せになるか計算してみました。

 

 表3 乾乳期の栄養レベル
(Dairy Japan 2004.01より作成)
 

 

乾乳前期

乾乳後期 

乾物摂取量 

 体重の2%前後

体重の1.6%程度 




 TDN 

 60

 68~72

 CP

 12

 14.0~14.5

 Ca

 0.4%以上

 0.35%程度

 P

 0.3%

 0.5%以下

 Ca/P比

 1.8~2.0

 0.7~0.9

q6fig7.gif 
図4 乾乳前期・後期の飼料給与の目安

 現実的には草地や番草、刈り取り時期によって成分や水分も違います。乾乳牛には粗飼料を最大限に食い込める環境を作り、少しでも多くの粗飼料を食べさせるようにします。その上で粗飼料分析を行い、分析値に応じてエネルギーを圧ペンとうもろこし等、タンパクを大豆粕等で調整します。
 粗飼料の分析値でカルシウムやカリの含量が高い場合は、乾乳後期牛には給与せず、カルシウムやカリ含量の低い低水分のラップサイレージの給与を考えます。
 

表4 乾乳前期の設計例

飼料名  設計例1  設計例2 
1番草サイレージ
乳配 CP18号
圧ペンとうもろこし
フスマ(一般)

54kg
2kg

 

 52kg

0.5kg
2kg

 表5 乾乳後期の設計例

 飼料名 設計例1  設計例2 
 1番草サイレージ
乾乳牛用配合 CP20号
圧ペンとうもろこし
フスマ(一般)
大豆粕

 35kg
4kg

0.5kg

 35kg

2kg
1.3kg
1kg

  分娩後は、粗飼料・濃厚飼料を搾乳牛用のものに切り替えます。給与量は分娩後4日間は変えないようにし、食い込み状態を見ながら5日目から2日に1kgの割合で増やします。給与量が8kgを越えたら3日に1kgの割合で上限まで増やします。
 

 (4) 乾乳牛のボディコンディションスコア

 

 乾乳期の管理が次乳期の乳量、乳質及び繁殖に影響します。乾乳期をうまく管理することで、分娩前後の疾病を最小限に抑えることができます。
 乾乳期間中はボディコンディションスコア(BCS)を維持することが重要です(写真1)。
 過肥は乾物摂取量の低下や脂肪肝などの周産期疾病の原因となりやすいので、乾乳になるまでにBCSを3.25~3.5程度に調整し維持します。
 乾乳期間中はやせていないか確認をします。  

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写真1 BCS3.5の状態

(5) 分娩場所 
 
 分娩前は何回も寝起きをします。このことで胎児の姿勢が調整され、難産予防となるといわれています。
 寝起きがしやすいように、足配りが良いクッション性のある場所、また、乳房炎の予防や子牛の健康のために、清潔で乾燥している場所での分娩が望ましい(写真2)。

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写真2 清潔でゆったりとした分娩房
 

 

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