平成19年度酪農技術の再点検15根室農業改良普及センター北根室支所

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 15 硝酸態窒素は大丈夫ですか


 硝酸態窒素の含有量が高い粗飼料を給与することは、慢性中毒の場合は流産、死産、発情微弱、乳量、乳質の低下、乳房炎、起立不能等の発生の要因になり、急性中毒の場合では死亡する場合もあります。

 
(1) 硝酸態窒素濃度が高くなる原因

 家畜糞尿や化成肥料由来の窒素はタンパク態窒素やアンモニア態窒素の形で施用されます。

 これらの窒素は土壌中の微生物の働きで、硝酸態窒素やアンモニア態窒素に形を変えて牧草に吸収されタンパク質の合成に利用されます。

 硝酸態窒素濃度が高くなる要因として

  1. 窒素肥料の多量施用により硝酸態窒素の吸収速度が牧草のタンパク質合成速度を超えたときに硝酸態窒素が多量に蓄積されます。
  2. 施肥時期と収穫時期の期間が短い場合にも硝酸態窒素の吸収量に対してタンパク質の合成が追いつかずに硝酸態窒素の蓄積がおこります。
  3. 日照不足により牧草の生育の悪い年は、タンパク質の合成が鈍化し硝酸態窒素が蓄積されます。

(2) サイレージと硝酸態窒素

 硝酸態窒素を蓄積した牧草をサイレージに調製すると、貯蔵中に硝酸態窒素の一部が消失することが確認されています。これはサイレージ中の微生物の働きにより、牧草中の硝酸態窒素の一部が酸化窒素ガスに変化するためです。

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図1 牧草調製法の違いが硝酸態窒素消失量におよぼす影響(増子、安宅)

 また、図1が示すように硝酸態窒素の消失率は、高水分サイレージ(水分75%以上)が高く、乾草が低くなってます。さらに皮肉なことに高水分サイレージの中でも発酵品質の悪いサイレージほど硝酸態窒素の消失率が高いことがわかります。

 牧草の硝酸態窒素はサイレージ調製することにより、ある程度減らすことができます。(高水分で劣質なサイレージを調製することをお勧めしているわけではありません。)

 原料草が含んでいる硝酸態窒素が多い場合は、サイレージ調製されても給与できるガイドライン(表1)を超えている可能性があります。

 表1 乳牛に対する硝酸塩含有飼料の給与ガイド
 飼料中硝酸塩態窒素含有量(乾物中%)  飼料の給与上の注意事項

 ~0.10

 どのような状態の乳牛にも安全に給与できる

 0.10~0.20

 給与バランスを考え、妊娠牛には乾物摂取量の50%以内にする

 0.20~0.34

 どの乳牛にも乾物摂取量の50%以内に制限し、しかも給与のバランスに注意する

 0.34

 中毒発生の可能性あり、給与に注する
(ブレウィット)


(3) 硝酸態窒素の弊害をなくすためには

 硝酸態窒素の弊害をなくすためには、窒素肥料(家畜糞尿と化成肥料)の施用量と施用時期から収穫までの期間確保が重要です。(少なくとも1ヶ月以上、理想的には2ヶ月)
 施用量については施肥標準に基づいておこないます。家畜糞尿の施用量及び成分を把握し、場合によっては化成肥料の減肥をおこない、適正な窒素肥料量を施用します。
 施用時期については、牧草収穫時期から逆算して少なくても1ヶ月以上前には施用しましょう。
 「硝酸塩中毒」で死亡する牛は少ないと思われますが、慢性中毒による繁殖障害や生産性の低下等は少なからず見受けられます。給与する粗飼料が疑わしい場合は硝酸態窒素含量を測定し、その結果をもとに表1のガイドラインと照らし合わせて給与量を検討しましょう。

 

(4) 早期刈り取り時は硝酸態窒素に注意

 

 

 春先にスラリー散布を行った圃場では、牧草中の硝酸態窒素濃度に注意する必要があります

 図2はサイレージに含まれる硝酸態窒素濃度の推移です。平均値こそ問題のない数値ですが、最大値では給与制限を意識しなければならない0.1%を越えています。

 早期刈取りした圃場のサイレージを給与する場合は、粗飼料分析をおこない硝酸態窒素濃度を確認しましょう。

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図2 1番草サイレージにける硝酸態窒素濃度

 

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