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最終更新日:2019年2月13日(水)


根室農業改良普及センター 平成20年度普及指導員地域課題解決研修


家畜ふん尿がサイレージの発酵品質に及ぼす要因確認
~異物混入の影響について~

 

 要約:
 土壌凍結地帯では、春先の作業に遅れが生じ、春の家畜ふん尿散布がサイレージの発酵品質に影響を及ぼす事例が散見されている。今回の課題解決研修では、様々な影響要因が考えられる中、主に異物混入について調査した。サイレージ洗浄水の濁度測定による異物混入の調査指標を作るとともに、スラリー散布による異物混入を濁度測定で評価した。また、サイレージ洗浄水の浮遊物質(以下SS※)を指標として、サイレージ発酵品質への影響を調査・検討した。

※SS(Suspended soild):水中を浮遊している物質または濁りの原因物質。これを測定するに は、透視時計に水を入れ、上部から透視し、底部に置いた標識板の二重十字が識別できる水 の深さ(cm)で判断し、透視度として示す。

 

はじめに

 根室管内は土壌凍結の影響により、春先の農作業に遅れが生じ、農作業機械が圃場に入れるのは早くても5月上旬になり、一般的には5月中~下旬に家畜ふん尿を散布している。
 試験成績(参考文献1参照)では、春にスラリーを散布した場合、サイレージの採食性には問題はないとされているが、現地ではスラリー散布が6月に入り込んだり、スラリー濃度の高いものが多く、十分な予乾もできないため発酵品質への影響が懸念されている。
 飼料分析値でも、全窒素中のアンモニア態窒素8%未満が目標であるが、30%を越えるものなども散見され、発酵品質の低下が現地の課題となっている。
 そこで、今回はサイレージ発酵品質への様々な影響要因の中で、異物混入を課題として取り上げ、その影響を調査・検討することとした。

1 研修目標と内容 

 スラリーの散布時期や濃度、散布量によるサイレージ発酵品質へ影響する要因の確認を本研修の目標とし、今回は、その中で異物混入の影響を確認する。

(1)活動経過
 スラリーの春散布がサイレージの発酵品質に影響を及ぼす要因の中で、何が問題となっているのかを検討した。

(2)現状把握及び条件設定
 異物混入度合の調査方法を決定するために、管内普及センターの各地域班のサイレージ洗浄方法についての情報を収集し、その問題点について整理した。
 また、家畜ふん尿の散布状況から原料草の調製状況が分かるものに限定し、バケツサイロを作成し、その発酵品質を調査することとした。その際、調査項目や分析方法を統一して行うことを確認した。

(3)先進地事例調査
 検討事項の参考にするため、管外3先進地事例調査や、十勝・釧路農業改良普及センターの活動支援方法など、課題解決策の情報を収集した。

(4)課題解決策の検討
 調査方法や分析結果の検討においては、根釧農業試験場技術普及部及び普及センター所長、主任普及指導員、普及指導員などの助言を得て、検討を進めた。

表1 活動経過(H20年)

第1回 7/31  課題設定、活動内容検討 
第2回  9/2  原料草異物混入度合指標作り 
第3回  9/30  バケツサイロ開封調査、
細断サイレージ異物混入度合指標作り 
第4回  11/10  バケツサイロ飼料分析値検討 
視察研修

11/25

11/26 

サイレージ調製農家先進事例調査
(足寄、鶴居) 
第5回  12/9  総合検討 

 

2 結果と考察 

(1) サイレージ洗浄の実態と問題点の整理

 根室管内においても各地域班がサイレージ調製技術改善の取組みを行っている。
 その中で異物混入度合い調査におけるサイレージ洗浄試験では、原料草の量(100g~1kg)、洗浄水の量(300cc~2リットル)などは地域班によってバラツキが見られ、また、洗浄方法も班によって様々であった(写真1)。
 特に手で洗う場合は、洗浄時間やかき回す回数等によっても違いが見られ、統一した指標がなければ、異物混入度合いについても同じ条件で評価できない状況にあることを確認した。
 

画像濃度のバラツキ
写真1 濃度のバラツキ
(根室農業改良普及センター北根室支所調べ)

 
 ア 異物混入調査の指標作り
 サイレージに混入する異物のうち今回測定可能なのは水溶性のものである。異物混入度合いの多少については、水溶性のスラリーや土壌成分の水への溶け出し量の濃淡で測定することと仮定した(写真2)。
 
写真2 条件を変化させた場合の洗浄水の濃淡

写真2  条件を変化させた場合の洗浄水の濃淡 

 
  洗浄方法については、手や器具を使って数回かき回す方法等も検討したが、個人差が大きいため、時間を一定にし、静置する方法とした。水や原料草の量も様々なパターンを検討した(表2)。
表2 サイレージ洗浄方法検討
 濃度  洗浄方法

SS 

(1)春スラリー散布なし秋堆肥あり 
原料草100g水1L  手もみ(A氏) 

51 

5分静置 

26 

(2) 秋・春スラリー散布なし 
原料草100g水1L  手もみ(B氏) 

143 

5分静置 

61 

原料草100g水2L  手もみ(C氏) 

56 

5分静置 

20以下 

(3)秋・春スラリー散布あり 
原料草100g水2L  5分静置 

21 

 

 イ 洗浄水の濁度測定

 一定の条件で抽出したサイレージ洗浄水の透視度測定のために、透視度計を用い統一基準として洗浄液のSSの濃度を測定することとした。
 また、水や原料草の量、時間等現場でもできる簡易な方法として以下の通り設定した。

  (1) 水1リットルに対して原料草100gを浸し5分静置する(写真3)。
  (2) 水をキッチンペーパーでこして、透視計を用いてSSを測定する(写真4,5)。
  (3) 色(茶か緑)とSSで汚れ具合を総合的判断する。

画像写真3 原料草100gに水1リットル
 写真3 原料草100gに水1リットル

画像写真4 キッチンペーパーでこす
写真4 キッチンペーパーでこす

画像写真5 透視度計の使い方
    写真5 透視度計の使い方

  1. 何も入っていない状態
  2. 液体を入れた後
  3. 十字が見えるまで液を捨てる
  4. 十字が見えた時
  5. 目盛りを読む 

 これらの結果、原料草の洗浄水の透視度が低く(SSが高く)、色調が茶色である場合はスラリー混入のリスクが高いと判定された。

 

(2) スラリー施用とサイレージへの混入

   スラリーの施用状況(散布量、散布時期)や収穫時調査(刈り高)が分かるサンプルについて、研修メンバーが各地域より事例を持ちより、バケツサイロを作成し、原料草の調製状況から発酵品質までを追跡調査した(写真6)。
 バケツサイロは直径28cm高さ38cmのバケツに、圧縮係数2.0となるよう原料草を鎮圧・
密封し、2ヵ月間発酵させサンプルとした。SSはサイレージサンプルにより開封後調査した。

画像写真6 バケツサイロ開封時調査
写真6 バケツサイロ開封時調査

ア SSとスラリー散布量

  スラリー散布量とSSの関係は判然としなかった。散布時期やスラリーの性状(乾物率など)等の影響も考えられる(図1)。
画像図1 SSとスラリー散布量(t/10a)

図1 SSとスラリー散布量(t/10a) 

イ SSと散布時期   
  散布時期が遅くなればSSが高くなり異物混入のリスクが増える傾向にあり根釧農試の試験成績(参考文献1参照)と同様の傾向であった(図2)。

SSと散布時期の図 
図2 SSと散布時期

 ウ SSと刈り高

 SSと刈り高では相関が見られなかった(図3)。このことは、刈り高が低いと異物混入のリスクは増えるが、高くした場合でも収穫機械のピックアップで拾う可能性や地際の未分解の有機物の量についても検討する必要があることを示している。

画像図3 SSと刈り高(cm)
図3 SSと刈り高(cm)

エ SSと調製作業

 調製作業が進むにつれ原料草の汚れは濃くなっていき、特に収穫機械のピックアップで拾っている可能性が示唆された(図4)。
 特にスラリーや堆肥散布した場合、この傾向が強かった。

画像図4 調製作業の経過とSS
図4 調製作業の経過とSS

オ 結果
  スラリーの散布時期と収穫作業による異物混入とSSに関係があった。散布量や刈り高と SSの関係は判然としなかった。

 

(3) スラリー散布と発酵品質

 バケツサイロを開封し、その分析値との関連を調査した。サンプルは全20点で、ここでは、全窒素中のアンモニア態窒素8%未満のサイレージを良質発酵サイレージとした(16点/20点)。また踏圧による影響を排除するため、圧縮係数は2に統一し調製した。

 

ア アンモニア態窒素とカリ濃度

  カリが高くなるほどアンモニア態窒素は上昇する。特に、カリが2.4%以上になるとアンモニア態窒素8%以上となった(図5)。 

 カリとアンモニア態窒素/全N(ギ酸除く)の図 
図5 カリとアンモニア態窒素/全N(ギ酸除く)

 

 イ アンモニア態窒素と粗灰分

 粗灰分が7%以上になるとアンモニア態窒素8%以上となった(図6)。

画像図6 粗灰分とアンモニア態窒素/全N(ギ酸除く) 
図6 粗灰分とアンモニア態窒素/全N(ギ酸除く)

 

 ウ アンモニア態窒素と水分

  水分が高くなるとアンモニア態窒素が高くなる傾向にあった。ただし、ギ酸を利用する場合は水分82%以上、ギ酸を利用しない場合は水分75%以上で、アンモニア態窒素8%以上になった(図7)。

画像図7 水分とアンモニア態窒素/全N
図7 水分とアンモニア態窒素/全N
 

エ アンモニア態窒素と散布時期
  5月中旬、5月下旬のサンプルが少なく、十分な要因解析に至らなかった(図8)。 

画像図8 散布時期とアンモニア態窒素/全N
図8 散布時期とアンモニア態窒素/全N

(4)  SSと発酵品質

 バケツサイロの発酵品質の分析値とスラリー混入の指標であるSS(浮遊物質)との関連を調査した(SSは原料草ではなくサイレージから調査)。

 

 ア SSとアンモニア態窒素

  SSとアンモニア態窒素の関連は判然としなかった(図9)。スラリー散布の遅れや収穫作業によりSSや混入リスクは高まるが、アンモニア態窒素の生成には多くの要因が関連しているためであると思われる。

画像図9 SSとアンモニア態窒素
図9 SSとアンモニア態窒素 

イ SSと酪酸

 SSと酪酸の関連も判然としなかったが、ギ酸添加した場合、酪酸生成量が抑えられている結果となった(図10)。 

画像図10 SSと酪酸
図10 SSと酪酸

(5) 先進地事例調査

 事例調査の結果を基に研修メンバーで話し合い、スラリー散布や異物混入について以下のポイントについて再確認した。 

画像写真7 先進地視察(足寄)
 写真7 先進地視察(足寄)

 

ア エアレーション

  特に大型機械による収穫を行っている場合、草地での有機物分解がすすまない場合が多い。秋と春、年2回のエアレーションを行い、草地がスラリーの有機物を分解できる状態にすることが重要である(写真8)。
 この場合、地下茎イネ科雑草が多い場合は草勢を強めてしまう可能性があり、チモシー主体草地であることが前提である。

画像写真8 エアレーション(鶴居事例より)
写真8 エアレーション(鶴居事例より)

 

  イ 地下茎イネ科雑草


 地下茎イネ科雑草については、硝酸態窒素の吸収率が高いことが知られている(参考文献2参照)。これらの雑草が多くなると、CPやKが高く、NFCが低い分析値となり、アンモニア態窒素も高くなる傾向にある。

 

 ウ 高刈りと収穫機械のピックアップ
 10cm程度の高刈りを行う事例は年々増加しているが、収穫時のピックアップの調整を行っている事例は少ない。その場合、地際にあるスラリー残渣(写真9)や土壌などを拾ってしまう恐れがある。
 今回の研修で、細断前の原料草のSSについても調査したが、降雨時のサンプルを除いて 100以下の低い値を示した。
  これにより、異物混入は刈り取り直後よりも、それ以降の自走ハーベスター等のピックアップや、ダンプ搬入時の土砂混入などの影響が高いことが伺われた。その場合、ピックアップの位置を上げて調整するなどの必要が出てくる。

写真9  地際に残ったスラリー(5月中旬散布)
写真9  地際に残ったスラリー(5月中旬散布)
 

3 まとめ

 これらの結果をまとめると以下の項目が挙げられる。

(1) 異物混入と発酵品質

  • サイレージ原料の洗浄液のSSを測定することで異物混入の度合を分析することができ、洗浄液のSSが高く色調が茶色になると異物混入のリスクが高い(写真10)。 

画像写真10 SS200以上の濁り具合(右)
 写真10 SS200以上の濁り具合(右)

  •  スラリー散布時期として5月中旬以降は発酵品質に影響する危険性が高い。また収穫作業により異物混入する可能性が高くなり改善策の検討が必要である。
  •  サイレージ分析値のカリや粗灰分含量が高くなると発酵品質が悪くなる傾向にある。スラリーも含めた施肥(量や時期)と合わせて植生についての検討が必要である。特に地下茎イネ科雑草はカリや窒素吸収が高いという報告が多い。
  • 原料の水分が高くなると発酵品質が悪くなる傾向にあった。特にギ酸は酪酸生成を抑えていた。 
  •  原料草の洗浄液のSSを調査することで混入度合を数値化することができたが、SSと発酵品質の関係については判然としなかった。今回の調査がSSの分析を原料草でできなかったことや現地からのサンプリングを中心に行ったため、的確な要因設定が限界であったことに起因している。
 

(2)今後の課題 

 

ア ピックアップ作業による異物混入の影響

 今回の研修で、収穫時のピックアップによる異物混入の可能性が示唆された。
 ピックアップの位置を上げて収穫した場合、圃場に草が残る可能性がある。圃場に草を残して収穫することに対する抵抗があると予想される。先進地視察では、「圃場に草を残しても、異物を収穫して捨てるサイレージを作るよりは良い」という声が聞かれた。現地調査を行い、農家への普及を図ることが課題となる。

イ 雑草が発酵品質に与える影響
 今回は、主に収穫時に細断されたサイレージ原料草をバケツサイロに詰めた事例が多かったため、地下茎イネ科雑草とチモシーを区別することはなかった。しかし、その割合で発酵品質や分析値にも影響することが予想されるため、草種を一定にした試験が課題となる。また現場においても適切な雑草対策が求められる。

 

ウ 散布時期と散布量が発酵品質に与える影響

 スラリー散布時期と散布量の関係については調査事例が少なく、更なる調査が必要である。
 また散布するスラリーの性状(成分、乾物率等)やスラリー散布開始からの経過年数によっても変動することが予想される。試験内容を十分検討し設定する必要がある。
 

写真11  5月下旬のスラリー散布後の様子

写真11  5月下旬のスラリー散布後の様子 

 
終わりに
  根室管内ではスラリー体系の農場が増加し、スラリー施用によるサイレージ発酵品質への悪影響が顕在化している。
 春のスラリー散布については、散布しないことが最も発酵品質改善に貢献する可能性が高い。しかし自給肥料の活用や地力対策等の観点から、スラリーの有効活用とサイレージの良質化を両立する対策を早期に確立しなければならない。

 <参考文献>
1.「牧草サイレージの品質と乳牛の採食性からみた春のスラリー散布時期」平成15年1月 北海道根釧農業試験場 研究部乳牛飼養科

2.「除草剤を利用した簡易更新技術の紹介」 平成18年 牧草と園芸第53巻第4号 雪印種苗(株)   北海道研究農場 場長 高山光男

    

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