第1回(平成13年度)「四島(しま)とわたし」絵本コンクール 結果

第1回(平成13年度)「四島(しま)とわたし」絵本コンクールeto100hidarimuki.jpg

 

 ico_bar3_12.gif 入賞作品

最優秀賞

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【タイトル】ばあちゃんの蘂取(しべとろ)「自然の楽園」-北方四島のいきものたち-
【応募者】三船 志代子
【作者】(文)三船志代子、(絵)林 真紀子
【あらすじ】択捉島蘂取村出身の「ばあちゃん」が、なつかしいふるさとの村や子どもの頃の岩場遊び、豊かな自然風景を優しく語りかけ、自由訪問で再度訪れた時の心情を切なくつづった作品。
【講評】文と絵が非常に合っているよい作品。しっかりした構成力をもつ文。古い事物を技術的にも高い手法で描いた絵。ともに完成度が高い。語り部口調の優しい言葉で伝える文章と和む絵とが響きあっていて読みやすい絵本。丁寧に描かれた絵からは、四島の風景や人々の様子が伝わり、四島が歩んできた歴史が文章によってストレートに読者にわかりやすく伝えられている。しかし、この作品は絵本のひとつのジャンル(学習絵本)でしかないということを今後に考える必要がある。

 優秀賞

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【タイトル】四島(しま)のかけ橋 エトピリカユミとパソコン
【応募者】斎藤 由梨
【作者】(絵・文:応募者と同じ)

【あらすじ】今から22年前。根室に住む小学生わたるくんとりかちゃんは、海岸で魚の網にかかり弱っていた1羽のエトピリカを助けます。なんとこの飼い主は・・!1羽のエトピリカが北方領土返還につながる作品。
【講評】最優秀作とは対比的に創作されたユニークな個性あふれる作品!
日本の子供が傷ついたエトピリカを助けることによってロシアの大統領が北方領土の返還を決意するという、民話のバリエーションのような意外な展開が楽しい。小学生でなければ絶対書けないStory、その飛び方がゆかい。ストーリーの場面展開のおもしろさと、細かいところまで描かれたイラストとが読み手を楽しませてくれる。
小学校3年生の女の子を主人公にした、総合学習や調べ学習での一場面を切り抜いたかのようなまさしく今を生きるストーリーである。パソコン、携帯電話という青少年の“必需品”をうまく利用しながら、素直な子どもの心の変化を描いており、同世代の子供たちが共感し、親しみを持つことができる。ただ、ややストーリーが長すぎるのと、読後に作品への共感・同意のみが強く残り、奥深い感動や印象が残らず、この交流の姿で安心、満足してしまう嫌いがある。

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【タイトル】ペポニのいる島ぼくらはみんなしっている
【応募者】阿部 夕希子
【作者】(絵・文:応募者と同じ)
【あらすじ】北方領土・歯舞群島の貝殻島に住むアザラシの「ペポニ」。ある日おいしい魚を探しているうちに漁師の網にからまってしまいました。そこで根室に住む漁師のおじさんに助けてもらったのですが・・。

【講評】思い切ってファンタジー化した物語と絵。端的な物語展開ととても美しく魅力的な絵に引きつけられる絵本。だれもが興味を持って読める作品に仕上がっている。完成度の高いイラストが印象的。文では表現できない心の想いをイラストが表現している。残念ながら四島をイメージできる表現が弱く、文章でのメッセージも少し弱い。

佳作

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【タイトル】わた毛が飛んだ日
【応募者】佐々木 沙樹子
【作者】
(絵・文:応募者と同じ)
【あらすじ】北方領土から引き揚げて、根室の小学校に転校してきた女の子「ハル」。お盆が近づくと、友達は配られるお菓子が楽しみでみんな楽しそう。しかしハルは「あること」が気になって泣き出してしまいます・・。

【講評】叙情性では高く評価できる。どこにでも咲くたんぽぽを題材にしてメルヘンの世界へ誘いこまれたよう。根室の戦後の風景、登場する少年少女の交流も当時をしのばせてよく描かれている。本題に入るまでが冗長ではあるが、四島を思う心情は良く描かれている。文章が整然として教科書的な非の打ち所のないものだが、逆に期待感が今ひとつと思う。

 

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【タイトル】コロとクルの「北方領土冒険記」赤いくちばし黄色いくちばし
【応募者】菅野 悠
【作者】(絵・文:応募者と同じ)
【あらすじ】コロポックルで仲良し兄弟の「コロとクル」ある日傘の取り合いをしていると、長老が現れ日本とロシアの関係から二人を諭します。北方領土がどんなところか気になりだした二人は、それから北方領土の各地を冒険するため旅立ちます・・。

【講評】子供のけんかに国の領土問題を重ね、北方領土返還を考えさせていることが、読み手にも良く理解できる。領土問題を主人公にかぶせ、物語は続く。文も長すぎなく、絵を見ながら考えさせられるものを持つ。コロポックルの子供二人が傘の奪い合いで喧嘩し、最後は仲良くという展開は素直。日ロの関係への比喩としても成功している。絵がマンガ的で親しみがあるが、物語の流れにもう少し工夫がほしかった。
no.21.jpg 【タイトル】ももちゃんのにじのはし
【応募者】小川 里恵子
【作者】(絵・文:応募者と同じ)
【あらすじ】雨あがり、「ももちゃん」はお母さんのおつかいでお出かけです。そこで泣いている男の子に出会います。その子は海の向こうを指さして「おうちに帰りたいよ」と言いだし、ももちゃんは困ってしまうのですが、そこに虹の橋が現れて・・。

【講評】望郷の思いを無理のないファンタジックな作品に仕上げてくれた。絵と文に愛らしいオリジナリティーがある。細部はリアルに描きながら、全体の物語(ファンタジー)に合わせた絵が魅力。「雨がたくさん降ったあと・・」本文の虹への準備が見えて憎らしいほどの手法。さらに涙は返還へのつなぎ道具立てでもあり、希望があふれ明るい作風。 領土返還の希望が、さりげなくにじみ出ているのが好感。 文章がもう少し整理され、イラストと響く関係になればよりよかった。
 ※ 絵本コンクールの全応募作品はこちら(PDF:87KB)

 

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岩田 宏一 根室市睦の園幼稚園園長(元島民)・・・審査委員長
加藤 多一 オホーツク文学館・生田原町図書館館長(剣淵町在住)
小崎 良子 別海町絵本読み聞かせの会「どんぐり」代表
越山 明裕 北海道新聞根室支局支局長
鈴木 日出男 羅臼町総務課総務課長(元島民2世)
名手 加奈子 標津町立標津中学校美術教諭
松永 伊知子 根室市立根室図書館司書
水野 美津子 中標津町手作り布絵本サークル「どんぐり」代表
横堀 幸雄 根室支庁地域政策部長

 

 ico_bar3_12.gif 審査員総評

 領土問題は根室地域の問題と考えている人達のためにも、絵本(文学作品)という広い分野、一般的に取り組みやすいと思っている手法を用いたことを高く評価したい。心配した地域的片寄りの応募でもなく、北海道はもとより全国的な人々の関心があったことを共に喜びたい気持ちです。作品全体に言えるのは、募集の期間が比較的短かったにも関わらず優れた作品と次への期待が持てる作品があったことは嬉しい限りです。ただし、絵本という性格上か、北方領土返還を強く強調するものが少なかった反面、島をユートピアのように表現している例が目立ったのが気になった。作者が大人の場合、子供に理解できる描写と歴史的事実をふまえたリアリティーとの両立を望みたい。子供の作品は全体に真剣で、子供らしい未来へ向けての想像の膨らませかたや、ロシア人の子供への共感が素直にうかがわれ、これだけでもコンクールを実施した意義があったように思われる。全体に絵はいいものが多かったが、ストーリーが弱いとも感じられた。将来もっともっとよい作品が寄せられることを期待します。

 

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