第4回(平成16年度)「四島(しま)とわたし」絵本コンクール 結果

 


 

第4回(平成16年度)「四島(しま)とわたし」絵本コンクールeto100hidarimuki.jpg

 

 ico_bar3_12.gif 入賞作品

最優秀賞

16-28.jpg 【タイトル】ひろくんの地図帳
【応募者】三戸部 祥子
【作者】(絵)三戸部 祥子さん、(文)佐藤 正人さん
【あらすじ】おじいちゃんから外国の地図帳をもらったひろくんは、北方領土の色がロシアの色に塗られていることに疑問を持つ。学校の地図帳では日本の色であることを発見し、お母さんとお父さんに疑問をぶつけるが、なかなか納得のいく答えを得られない。最後に、おじいちゃんから北方領土問題について教えられたひろくんは、北方領土の返還を願いつつ、外国の地図帳を自分なりの“北方領土の色”に塗り変える。
【講評】文、絵とも分かりやすく簡潔に表現されており、低年齢の子供にも分かりやすく伝わる。 読者(子供)と等身大の主人公の興味と、その日常生活の中で繰り広げられる家族との問答を通して、作品に同化・共感できる作品。先住民族に触れた歴史的な視点も高く評価できる。絵は、バランス、優しい配色、イラストの単純化など、無駄のないシンプルな表現でまとめられている。表紙から最後のページまで登場人物の見る角度がよく考えられて構成されており、展開の方法にも工夫がされている。

優秀賞

16-19.jpg 【タイトル】あなたに会いたくて
【応募者】関 好伸
【作者】
(絵)関 好伸さん、(文)佐藤 正人さん
【あらすじ】ふるさとである国後島に想いを馳せ、島に眠る人に会いたいと想う強い気持ちが鳥となって、海や山を越えていく。叙情的に望郷の想いを描いた作品。
【講評】絵本としての完成度が高く、詩情豊かな文と貼り絵の表現とのバランスが絶妙。抽象的な表現が想像力を膨らませ、見るものに考えさせるような奥深い作品。ちぎり絵の繊維の表現と独特な人のシルエットにひきつけられる。島への想い、残してきた人への深い想いが切々と伝わり、「北方領土」のみならず、さまざまに分断された痛切の思いに語りかけるものとしても受け取れる。ただ、「子供向けの作品」という観点からは、それを超えたダイナミズムを持つ作品と評価できる分、子供には年令的な理解のハードルがもたらされる作品といえる。

佳作

16-1.jpg 【タイトル】おばあちゃんの絵日記
【応募者】有櫛 玲衣子
【作者】(絵・文:応募者と同じ)
【あらすじ】
おばあちゃんが自ら描いた絵日記を元に、戦争によって強制的に北方領土を追われた悲しみや、一家で島に戻ろうと試み、それによって自分以外の家族を失った辛い体験を孫に語る。おばあちゃんの一人語りで北方領土の返還と、反戦・平和を訴える物語。
【講評】
中学生とは思えぬ構想力と発想で、単に現象面だけをとらえるのではなく、北方領土問題の原点でもある「戦争」について掘り下げている。戦争の愚かさ、そしてまたイラク派兵、日本における戦争の風化などにまで筆が進んでいる。日ごろからの作者のもののとらえ方・価値観が反映されていて、随所に読者に対する示唆が込められている。
 領土問題の根幹は「反戦・平和」にあり、この作品にはその視点がある。それは国民の願いそのものであり、この事業が4回目にしてこの作品に出会ったことは大成功である。残念ながら文章の深さに比べると絵が文を邪魔してしまったところがある。中学生としては素朴な絵だが、しっかり構成し、着彩するなどもう少し丁寧に描いてほしかった。
16-05.jpg 【タイトル】マトリョーシカ
【応募者】島田 規江
【作者】(絵・文:応募者と同じ)
【あらすじ】
パパがお土産に買ってきたロシアの人形「マトリョーシカ」は、その人形の数だけ願いが叶うと聞き、主人公は7つの人形に願いごとをする。7つ目に出てきたロシア大統領の「マトリョーシカ」をきっかけに、主人公は北方領土問題について知り、その人形に北方領土返還と世界の平和を願う。入れ子細工になっているマトリョーシカを上下にページを切り離すことにより表現した仕掛け絵本。
【講評】 
1ページを半分ずつ開いていくアイデアを凝らした手法が絵本として楽しく、興味をひく作品。マトリョーシカというロシアを代表する人形を介して、分かりやすくロシアを紹介している点が目新しく、その中で北方領土問題の現実を伝え、最後に平和希求というメッセージをしっかりと伝えている。文章も簡単で読みやすいが、前半の印象が強く、後半の北方四島の話とのつながりに少し無理があり、全体の文章の主旨が弱まった点が惜しい。
16-24.jpg 【タイトル】小さなクロ
【応募者】馬場 典子
【作者】(絵・文:応募者と同じ)
【あらすじ】
海の向こうに見える島に憧れる小熊のクロは、ハルオに連れられてその島に行く船に乗り、故郷を後にする。しかし、クロとハルオは故郷に帰ることができなくなり、クロは故郷にいつでも帰してもらえるようにと、成長を止めてしまう。やっと帰ることができたクロは、故郷に残してきた母親を捜すが、長い年月が経っていたことに気付き、成長した姿に戻ってしまう。母親のいない故郷でクロはハルオを待ち続ける。
【講評】 
故郷を追われた時のまま時間が止まってしまったクロが、島を追われた元島民と重なり、その心と痛み、望郷の念を感じさせている。物語としてさまざまな工夫がされていて、ぐっと引き込まれる魅力がある。絵は、構図や配色など技術面は高く、着彩方法での水彩絵の具の特徴を生かしたにじみは、物語ににじみ出る優しさとうまく響きあっている。しかし、場面展開が読み手にとってわかりにくい部分があり、物語に「じゃあどうするのか」というメッセージがない。

えとぴりか賞 

16-18.jpg 【タイトル】みちみちみっちゃんのぼうけん
【応募者】菅野 亜沙希
【作者】(絵・文:応募者と同じ)
【あらすじ】 
「自然の豊かさ」を絵に描くという宿題に、何を描けばいいか分からないみっちゃんの前にエトピリカのシャーシャが現れる。シャーシャの住まいである北方領土への冒険を通じて北方領土問題を知り、また、「自然の豊かさ」とは何かを理解する。
【講評】現実から夢の中へ展開する物語が全体としてまとまっており、文章も読みやすく、絵とのバランスも良い作品。愛らしい話しぶりの中に、「北方領土」を意識してひもといている労作であり、エトピリカとの交流を通して、自然の大切さを訴えている。絵も大胆な構図で目を見張るものがあり、女の子が表情豊かに表現されている。ただ、もう少し内容にアピールするものがあったら良かった
16-12.jpg 【タイトル】大切な仲間たち
【応募者】神山 耕輔
【作者】(絵・文)神山 耕輔、石井 鴻紀(絵)門間 智洸、(文)今瀧 航輔、上野 貴則、西村  弦
【あらすじ】北方領土の自然について書かれている本を読んだ集一は、おばあちゃんに四島に住むいきものや攻めてきたソ連人に四島を追い出された体験などを聞く。そして、おばあちゃんが今も北方領土に帰りたいと思っていることを知る。
【講評】
集一とおばあちゃんとのやりとりで北方領土の自然、ソ連軍の侵攻などが素直な記述でつづられており、好感がもてる。「北方領土」の様子と返還への願いが伝わり、最後の「北方領土の自然、動物、魚はおばあちゃんにとって大切な仲間たちなんだよ。」の台詞が生きている。絵は、ところどころに色を重ねて塗るなど、着彩に工夫が見られた。 画面上に、参考にした絵とともに、もっと独自の絵も描かれていると良かった。
16-08.jpg 【タイトル】うれしい時 かなしい時
【応募者】能登 彩花
【作者】(絵)奥田 雅さん(文)能登 彩花さん、昆 瑛里奈さん
【あらすじ】択捉島に住む小学校4年生のゆう子が、マトリョーシカや爺爺岳で楽しく遊んだ様子やソ連軍の侵略に怯える日々を描いた物語。
【講評】学習したことをもとに、一生懸命想像力を働かせて制作したことがうかがえる。人間をさまざまな角度から描いた表現や豊かな表情が工夫されている。これからも、興味を持ったことや学習したことなどをどんどん文章や絵にしていくと、より理解や表現力が高まるようになると思う。子供らしい絵で、色鉛筆のいろいろな色を使っているところに工夫が見られる。文字を書くときは下に線などを引いて、その線を基本に書くともっと見やすくなるので試してみては。
16-27.jpg 【タイトル】とりのぴろ
【応募者】高瀬 さやか
【作者】(絵・文:応募者と同じ)
【あらすじ】空を旅していたぴろは、北方領土にたどり着く。そこであったエトピリカに島の自然やたくさんの友だちを紹介され、ぴろもみんなと仲良くなる。そして、ぴろはまた色々な所を見て回る旅に出る。
【講評】 
貼り絵の効果が印象深く、色がきれいな作品。北方領土で、とりのぴろがエトピリカから島の友だちを紹介されるというシンプルな内容で、文も短く分かりやすい。絵も文も楽しい作品に仕上がっている。しかし、北方領土のイメージが弱く、物語としての発展性がないのが残念。もう少し物語が深まると良かった。
 ※ 絵本コンクールの全応募作品はこちら(PDF:100KB)

 

 ico_bar3_12.gif 審査員

《審査委員長》
 岩田 宏一 根室市睦の園幼稚園園長(元島民)【北海道根室市】
《審査委員》
 青木 隆直 北海道新聞根室支局長【北海道根室市】
 加藤 多一 児童文学作家、生田原町図書館・オホーツク文学館館長【北海道長沼町】
 小崎 良子 絵本読み聞かせサークル「どんぐり」主宰【北海道別海町】
 鈴木 日出男 羅臼町議会事務局事務局長(元島民二世)【北海道羅臼町】
 中田 勇 元中学校校長(元島民)【北海道根室市】
 名手 加奈子 標津中学校美術教諭【北海道標津町】
 松永 伊知子 根室市図書館司書・絵本作家【北海道根室市】
 水野 美津子 手作り布絵本サークル「どんぐり」主宰【北海道中標津町】
 和田 秀樹 北海道根室支庁地域政策部長【北海道根室市】

 ico_bar3_12.gif 審査員総評

 今回で最終回となる絵本コンクールには、31点の応募がありました。「新しい」表現には出会えなかったものの、主張、願い、夢、史実、現実など31点それぞれに工夫や努力が見られました。
 今回の特色の一つに、2人以上での合同作品が多く、学級での取組によるグループ作品もありました。
 連続して挑戦してくださる方も多く見られ、より趣向を凝らした独自の世界を展開していました。
 また、えとぴりか賞を設けたこともあり、中学生以下から13点もの作品の応募がありました。特に、小学校低学年の作品が多かったことは大変喜ばしく思います。作品それぞれの完成度はさまざまでしたが、なにより、絵本を描くために北方四島について学習するという、その過程が大切です。領土問題を風化させることなく伝えていくことの重要性を考えると、こうした取組が行われることによって、これからの世代の返還運動に大きな期待が持てると思います。
 今後も何らかの形で、絵本という総合芸術を通じた啓発活動の機会を、継続して作ってほしいと望んでいます。
 純粋に自由な発想でのみ成り立つ絵本に「制作の目的」を課すことはもともと難しいことです。「北方領土」というテーマで、次代を担う子供たちを啓発するという趣旨に、応募者それぞれが意欲をもって取り組んでくれたことに、心から敬意を表したいと思います。

 

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