平成19年度酪農技術の再点検12根室農業改良普及センター北根室支所

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 12  草地管理から行う生産コスト低減対策

 

 生産調整が実施され、所得を確保するため各部門においてコスト削減が求められます。コスト削減は何も新しいことを始めなければ、ということはありません。いままでの基本技術をきちんと行なうことでコスト削減を図ることが可能です。

 

(1) 草地管理のポイント

 牧草の生育状況に合わせた施肥作業を行ない、かつ収穫までの期間を適切に確保し、最も栄養価の高い時期に収穫し、良質な粗飼料を確保する。当たり前のことかもしれませんが、このことが最もコスト削減につながる対策ではないでしょうか。   

  
 

 施肥作業機、糞尿散布機の点検・整備

 

 草地の土壌凍結状況の把握

 牧草の萌芽に合わせた施肥の実施

 糞尿散布・施肥の実施

早期の散布により、収穫までの期間を確保。
硝酸態窒素等の影響をできる限り少なく。

 栄養価の最も高い適期に収穫・調製

 

 良質粗飼料の確保

 繁殖成績の向上、疾病の減少!!

 濃厚飼料の削減が可能

 乳量1kgあたりの生産コストの削減!!

(2) 施肥の前に

 土壌凍結や積雪の程度は融雪期や萌芽期などに影響し、春の作業時期を左右します。北根室管内の土壌凍結深度は、図1に示すとおり、平年では14.5cmですが、平成19年3月には23.1cmと年により差があります。また地域によっても異なります。

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図1 H18年度の土壌凍結状況(普及センター北根室支所調べ)

 融雪後の草地は、前年秋に散布した堆肥やスラリーまたは枯れ草が残っています。これらがサイレージ調製時に混入すると、発酵品質に大きな影響を与えます。また、枯れ草やスラリーがシート状に覆っている場合もあり、牧草の生育や施肥の効果を低下させます。パスチャーハローなどでこれらを改善することができます。裸地(凍害、前年秋のギシギシの除草等による)が大きい場合は、追播(表面を軽く混和して播種)しておくと良いでしょう。
 また、圃場に作業機械を痛めそうな 石やゴミがあれば取り除き、作業機械の点検整備を始めましょう。適期の安全な作業のために点検は重要なポイントです。

 

(3) 施肥時期について

 肥料の量は同じでも、施肥時期によって牧草の生育に及ぼす肥料効果が違います。チモシー草地に対する施肥を適切な時期に行うことで、収量をさらに向上させることができます。
 1番草収量は、図2が示すように、窒素吸収が盛んな4月下~5月上旬の萌芽期に窒素分を施肥することで有穂茎数が増え、6月上旬の伸長期施肥に比べて1.4倍もの収量が得られます。しかし、施肥時期が遅れると幼穂形成期までの窒素吸収量が少なくなり、収量の増加を制限してしまいます。

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図2 早春の施肥時期が1番草収量、有穂茎数に及ぼす影響(1985松中・小関)
※ 萌芽期とは牧草の根が活動を始めた時期、牧草の葉が緑色になり始めた時期


 北根室地区の萌芽期の平年値は4月28日前後です(表1)。萌芽期は早春の平均気温により左右されます。この時期、草地の立地条件によっては、まだ、かなりの水分を含んでいてトラクタ等により草地を痛めてしまうこともあります。草地の巡回をこまめに実施して、土壌凍結がなくなり機械がほ場に入れるようになったら1日でも早い施肥を心がけましょう。
 また、スラリーや堆肥を散布する場合は、「化学肥料の減肥」と「5月中旬までの散布」に注意しましょう。 (散布の遅れは硝酸対窒素、採食性に影響が出ます)。  

 表1 北根室管内の融雪期・萌芽期と平均気温の推移

 

平成19年 

平成18年 

平成17年 

平成16年 

平成15年 

平成14年 

平成13年 

融雪期 

4月14日 

4月28日 

4月27日 

4月18日 

4月19日 

4月9日 

4月14日 

萌芽期 

4月29日 

4月30日 

4月27日 

5月4日 

5月7日

4月24日 

4月28日 




 2月

-4.8 

-6.0 

-7.3 

-5.2 

-8.7 

-5.2 

-10.8 

 3月

-1.8 

-0.8 

-3.1 

-2.6 

-3.0 

-1.3 

-3.4 

 4月

2.7 

1.9 

2.9 

2.8 

3.7 

5.2 

4.7 

 5月

8.4 

9.3 

6.3 

9.8 

8.5 

9.5 

7.6 

※萌芽期:普及センター調べ

※平均気温:MICOS気象情報(アメダスデータ日報)より

  また、1番草刈り取り後の施肥時期は、チモシーの新分げつが伸長を開始した5~10日目頃が最も多収となります。

 

(4) 糞尿を散布した草地への施肥

ア 糞尿による草地への影響

 草地での野積みは法律により禁止されています。そのため堆肥化施設における堆積量が増加し、腐熟化させることが難しくなっています。
 また、年間に施用される糞尿量は今までと変わらないかもしれませんが、肥効の高い未熟堆肥の散布が増える事で、より多くの肥料成分が土壌中に還元されることになります。
 従来と同様な施肥銘柄、施用量では土壌中の肥料成分の過不足が生じ、ミネラルバランスが崩壊します。特に「カリ過剰による苦土欠乏」が顕著に現れます(表2参照)。
 これらのことは、結果的に収量の低下やサイレージ品質の低下につながります。よりよい粗飼料を生産するために、今一度施肥について見直してみませんか?

 表2 イネ科の主な養分障害

 

 養分障害例

 症状

 苦土欠乏

 葉脈がスジ状に黄化する

 カリ欠乏

 葉先から赤く枯れ、葉に赤っぽい斑点が現れる。

 窒素過剰

 葉色が濃い緑色を呈する。

 家畜糞尿を多量(スラリーで10アール当たり4t以上、未熟堆肥で10アール当たり5t以上)に散布している草地では土壌のミネラルバランスが崩れていることも考えられます。定期的な土壌診断(3年に1回)を行い草地に合った施肥量を検討しましょう。(これらの問い合わせは普及センターまで)土壌分析については各農協担当課へ依頼してください。


イ 基準の施用量(施肥基準)を決める

 草地の施肥量は植生(マメ科率とイネ科率(チモシー))によって決められます(表3)。そのため、施肥管理は草種構成に対応して変える必要があります。

 表3 チモシー主体草地の植生タイプと施肥標準(kg/10a)(年間)

 タイプ

 チモシー割合

 マメ科割合

 窒素

 リン酸 

 カリ

 どんな草地か(目安)

 1

 50%以上

 30%以上

 4

 10

 18

 更新から4年程度の草地

 2

 50%以上

 15~30%

 6

 8

 18

 更新から5年以上の草地

 3

 50%以上

 5~15%

 10

 8

 18

 多くの草地がこの分類

 4

 70%以上

 5%未満

 16

 8

 18

 マメ科の消えた古い草地

 マメ科牧草とチモシーの割合を知るための方法として、草地の数カ所で約1メートル四方の植生を調べます。また、この時に裸地の割合や雑草の割合も同時に記録します。草地全体の裸地の割合が3割を越えるようでしたら追播や更新も検討しましょう。
 マメ科率とチモシーの割合による植生区分が決まったら、表3の北海道施肥標準を使って施肥量を決めます。

 

ウ 草地に施用した糞尿量を把握する

 堆肥やスラリーは腐熟の度合いや曝気(ばっき)の有無、牛舎洗浄水の混入などで肥料成分が変化します。それぞれの成分をしっかり把握するために、散布前に糞尿分析を行なって状態を知る事が重要です。分析値がない場合には、表4の肥料成分値を参考にして、草地に還元された肥料成分量を計算します。

表4 標準的な糞尿の肥料成分値(kg/1t)

 

   窒素  リン酸  カリ
 堆肥

 1

 1

 3

 スラリー

 2

 0.5

 4

 尿

 5

 0

 11

※この表は分析を行なわない場合に暫時的に用いる数値です。

 

(4) 施肥量、施肥配分を決める
 
施肥標準から表4または糞尿の分析値を引いたものが、化学肥料による年間施肥量となります。
 また、チモシー草地では、1番草の収量割合が大きいことから、生育量に応じて1番草に多く施肥する方が効果的です。
 簡易糞尿分析や、施肥設計など詳しいことは普及センターまでお問い合わせください。

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 (5) 放牧地の施肥管理

 放牧地の施肥は、「5月上旬、6月下旬、8月下旬」の年3回均等施肥が基本となります。また、チモシー・白クローバー混播放牧草地では、「5月上旬、7月下旬」あるいは「6月下旬、8月下旬」の年2回均等施肥も条件(きめ細かい放牧計画、放牧面積の拡大)により可能です(表5)。我が家の牧草地面積、作業スケジュールを考慮して施肥時期を決めましょう。

 表5 チモシー・白クローバ混播草地の必要牧区数・面積(根釧地域における試算)
(2001、根釧農試、一部改変)
施用時期   必要牧区数  a)  放牧面積(ha・50頭) b) 
 5・6月  7・8月  9・10月  5・6月  7・8月  9・10月
 5月上旬・6月下旬・8月下旬  12  18  30  13  20  33
 5月上旬・7月下旬  10  21  32  11  23  34
 6月下旬・8月下旬  20  18  32  22  19  35
a) 集約放牧:1日1牧区利用する
b) 放牧頭数(成牛)を50頭とした場合の総放牧面積
a)、b)ともに放牧期間を5月20日~10月20日で計算した。

 

(6) 牧草収穫時の堆肥混入防止

 前年秋や早春に散布した堆肥等が牧草収穫時に混入すると、サイレージの品質が悪化し、嗜好性等が低下します。図3をみると堆肥の混入率が増えると酪酸が増加し品質が低下していることがわかります。草地上の堆肥塊をパスチャーハロー等により砕き散らし、混入量を低減させましょう。

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 図3 堆肥混入とサイレージの発酵品質

 

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